私、大塚孝幸が商品製作で特に大切にしているのは、ノスタルジックでありながら決して古くはない、現代の感性から見ても粋で洗練されたレザーアイテムとする事です。そのために、カービングだけでなくモノとしてのバランス、フォルムも入念に吟味しています。 郷愁や懐かしさ、古き良きモノを想起させる雰囲気を残しながらも、そこに時代に合わせて常にブラッシュアップする洗練性と色気を融合する事で、タカ・ファインレザーならではの空気感が立ち上り、魅力あるモノに仕上げる事を目標としています。 また、魅力的なエイジング(使用と経年による変化)をお楽しみながらお客様に末永くご愛用頂けるよう、素材となる革の選択と耐久性を考慮した仕立て作業にも細心の注意を払っています。
作り手としての私にとって商品の完成はゴールですが、お客様にとって商品を手にする事はスタートです。私はすべての商品の製作過程で「アメリカンレザークラフトとオールドタイマーの物語」を込めるよう心掛けています。 そこにお客様自身の物語を積み重ねて商品を育てていただき、味わい深くエイジングしてお客様が「他には替え難い自分だけのモノ」と思えた時が、本当の意味の完成だと思っております。 是非、そこにあるだけで物語が立ち上るようなレザーアイテムの完成を目指してください。
当工房では、1900年代前半にアメリカのサドルメーカーが使用していたアンティーク工具を多数所有し、実際に商品製作に使用しています。大塚氏がアメリカ滞在中に知人のオールドタイマーから受け継いだものや骨董品の工具専門店で購入したもので、中には100年以上前のものもあります。 外観は素朴ながら柄の木材も刃の鋼材も高品質で、現在でも良質な工具として機能する上、数十年から百年もの間、錆びて朽ちる事なくエイジングして生き延びてきた何とも言えない風格があります。今では工房のディスプレイや飾り、コレクション品としても高い人気があり、アメリカのオークションサイトなどで高値で取引されています。 こうしたアンティーク工具を当工房でわざわざ現役の工具として使用する理由は、サドル産業全盛期や当時のクラフトマン達に想いを馳せながら「その時活躍した工具を使用している」という充実感と、オールドタイマーの息吹を商品に込めるという想いからです。 商品の完成度やお客様の満足度に直接影響はないかもしれませんが、当工房ならではの想いとして大切にしている部分です。
革に転写した図柄の輪郭に“スーベルナイフ”というカービング専用の工具で切り込みを入れます。この最初のカットが綺麗でないと美しいカービングに仕上がらないので、非常に大切な工程です。また、カットが浅すぎると立体感に欠ける柄になり、深すぎると製品になった時に革が破けやすくなるので、カットに深さには細心の注意を払います。
レザーカービング(革の彫刻)は木彫りや彫金と違い、削り取るのではなく刻印を打って凹ませて立体感、陰影、質感を表現します。打刻が弱いと平坦な印象になってしまい、強すぎると全体が押し潰されたような印象になります。強弱のメリハリを意識しながら打つことにより、コントラストが生まれて美しく躍動感のある彫り上がりになります。
カービングが完成後、図柄の背景に液体染料で色を差し、その後、全体をペースト状の染料でスミ入れ仕上げ(アンティークフィニッシュ)します。陰影のコントラストがより鮮明になり、図柄の立体感と躍動感が強調されます。 デザインによってはフチ(柄の外側の余白部分)も液体染料で背景と同じ色に染めて、図柄をより強調して浮き立たせる場合もあります。
パーツを全て切り出した後、貼り合わせ、縫製の前に、各パーツの下処理をします。 接着剤の乗りを良くするために接着箇所を荒らす、負荷のかかる部分は裏から補強を貼る、 負荷のかからない部分は無駄な厚みを軽減するために漉く(裏から削いで薄くする)、あらかじめ処理しておくべきコバ(革の断面)を磨く、など多くの作業があります。 これらの下処理をしっかりする事が、アイテムの耐久性と使いやすさ、仕上がりの美しさにつながります。
縫製はミシンを使用せず、財布などの内装も含め、すべて二本針による手縫いで行っています。また、下処理の漉き加工を工夫して縫い目のきわがふっくらと盛り上るように仕立てます。これにより糸の摩擦を軽減して擦り切れを防ぐと同時に、アイテム全体のフォルムがより美しい印象になります。
カービング、染色を施した表革と内装を縫い合わせ、コバを処理します。革が何層にも重なったコバを紙やすりで整え、染め、磨き、を繰り返して丁寧に仕上げます。 時間と手間のかかる作業ですがコバ仕上げの美しさにより、アイテム全体が引き締まった印象になり、高級感が格段に増します。